調査員ブログ

「親確」の採用リスクに備えるためのバックグラウンドチェック

近年の就職活動の現場で「親確」という言葉を耳にする事があります。これは、内定を出した就職希望者(特に新卒内定者)が親の反対により入社を辞退してしまう事を防ぐ為に、企業が「親から入社の承諾を得ているか」を確認する行為を指します。企業側は内定辞退を回避する為、予防的にこの確認を行う事があるようです。親確という「親の同意の確認」は現代の就職市場の一面を映していると言えます。

実際、私が以前に担当した、東京のある企業のバックグラウンドチェックの結果では、営業での採用候補者が親の反対により一度も出勤していないケースがありました。同案件は、出勤していないにもかかわらず、在籍期間を1年と偽っていましたが。
その人の採用を検討していた企業担当者は、営業職において顧客獲得の為には候補者自身が自分の意志で行動できる事が不可欠、と考えていました。親を説得して同意を得られない候補者を採用しても、営業職として結果を出す事は難しいだろうと判断し、引き留めもせず採用を見送ったそうです。

時間をかけて選考し、ようやく内定を出した人材を親の一言だけで失う事は企業にとって大きな痛手です。実際には、すべての企業の採用担当者が割り切って考えられる訳ではなく、親が口を出してくる事に疑問を感じる採用担当者は多いようです。

内定辞退の理由は様々ありますが、バックグラウンドチェックで判明した事例では、親が上京での一人暮らしに反対等の他、採用候補者が就職を希望する企業の製品やサービスに家族が否定的な場合もありました。こうした背景を考慮すると、企業は単に候補者本人の意思を確認するだけでなく、家庭環境や親の考え方にも目を向けざるを得ない事がわかります。
近年では、内定者懇親会に親も参加できるようにして、家庭との意思疎通を図る取り組みを行う企業が東京を中心に増えつつあります。これにより、親の同意書の提出を求めやすくしているそうです。また、親を対象とした企業訪問会を実施して、企業の業務内容や職場環境を直接見てもらい、理解を深めてもらうケースもあるとの事。10年前であれば考えられなかったような方法で、内定辞退のリスクを事前に軽減できるように努める企業が増えている事に驚きます。

特別な事情がなければ高校卒業の時点で18歳であり、大学卒であれば社会的には十分な成人とみられます。法律上は自己責任で行動ができる年齢であり、親の同意や承認を必要とするわけではありません。しかし現実には大学卒であっても、親の影響力や生活のサポート体制がまだ残っている場合も多く、親の意向が就職に影響する事が少なくありません。これは、個人の意思と家庭の価値観が交錯する現代の雇用環境の一面と言えるでしょう。
バックグラウンドチェックの結果以外において、インターネット上でも、親の反対による内定辞退の事例は散見されます。地方から上京予定の学生が、親に自宅から通勤圏内での就職を強く希望され、希望する企業への入社を断念したケースや、家業を継ぐ事を条件に就職先を制限された学生もいるようです。本人の意欲だけでは決められない現実がある事がわかります。

企業が求める人材は、単にスキルや学歴だけでなく、主体性や自律性、行動力も含まれています。そういう意味では、就職に親の同意が必要である事に不自然さを覚えます。社会人としての自立を促す視点からすれば、助言は聞く必要がある、とは思いますが、基本的には親の意向に左右されずに、自身で判断できる人材の方が望ましいでしょう。
一方で、候補者が家庭の影響を受けやすい状況にある場合、親の協力や理解がある事で、採用候補者が安心して職場に馴染み、長く活躍できる場合も少なくありません。結局のところ、採用活動において重要なのは、候補者本人の意志と能力を正確に見極めつつ、周囲の影響も含めた総合的な判断を行う事だと考えます。つまり、内定辞退回避の鍵は、企業がいかに候補者の事を把握できるかにあります。 

企業は優秀な人材を確保する為にあらゆる手段を尽くしますが、本人の意思や家庭の影響を無視して採用戦略を進める事はリスクとなり得ます。採用活動は、採用候補者の経歴や職能、人柄だけでなく、こうした様々なバックボーンも含めて情報として整理していく事が必要です。もちろん、出自などの差別につながる事象について触れることは許されません。
その判断材料を収集し客観的に伝える事が、バックグラウンドチェックの役割と私は考えます。私は一調査員ですが、社会の構造の変化の中で企業が良い人材を確保する為に、いかに大変な思いをしアイデアを絞っているか、バックグラウンドチェック(リファレンスチェック、採用前調査)を通じて感じます。健全経営を目指す企業に、今後も少しでも役に立てる調査結果を報告できるように努めたいと思います。