調査員ブログ

企業経営における信用調査の重要性

小学校の朝礼時に校長が「騙すより、騙される人になれ」と語っていた事がありました。小学生当時は「なぜ、騙される側にならないとダメなのか」と不思議に感じていました。現在、信用調査会社で働く私としては、この教えはビジネスに有効とは言えませんし、何らかの解決をもたらす考え方とも思えません。

企業にとって「騙される」という事は「損失」を意味します。例えば、儲け話があり、安易に出資をしたり保証人等になってしまえば、その後の事業展開に長期的な負担を背負う可能性が高くなります。実際「騙されてもいい」という考えは、企業の経営において許されない考え方です。子供はいつかは社会で働きます。学校で教えるならば「騙すな、騙されるな」の方が、今後の役に立つのではないでしょうか。

「騙すな、騙されるな」の心構えは、客観的に取引相手や条件を見極める事に役立ちます。相手の話に流されず、慎重に進める為には、何事にも確認をする習慣をつける事が重要です。そういった意味からも、信用調査や反社チェックは有効な手段と言えます。新規取引の前に調査を行う事で、相手企業や代表の過去の動向、信用状況、取引履歴などが知識として入ってきます。それにより、気づきが増え、判断の精度も高まる為、様々なリスクを減らす事が可能になります。大手調査会社の企業レポートを取り寄せる事も確認の1つですが、このレポートサービスは調査対象企業から聞き取った情報を基に作成されているので、いわゆる「盛られた情報」の可能性が高く、注意が必要な場合もあります。実例として、主要取引先と記載されている企業が「過去に商品の取引が一度あっただけ」「見積りをしただけ」と言う事も珍しくありません。

以下は、当社の案件の中から、調査を怠った事で迷惑を被った経営者の一例です。
ある不動産の貸主が、ある業者(調査対象企業)を「有望なテナント」と考えて、入居を許可。相手の希望で、特別に看板の設置を許可した上で契約を交わしました。暫くは何事もなかったのですが、ある日、家賃の支払いがなかった為、そのテナントに連絡をするも音信不通。テナントは行方知れずになってしまったそうです。その後の支払いはもちろんなく、部屋には廃棄に費用が掛かる物ばかりが大量に捨て置かれていました。また、看板は使いまわしができない造りで、売却もできない代物です。撤去をするにも多額の費用がかかるため、原状復帰もままならず、泣き寝入りせざるを得なかった様です。せめてもの気持ちでしょう、調査時に、その看板はブルーシートで覆われていたそうです。もし、入居許可前の段階で与信調査を行っていれば、相手の過去に「同様のトラブルがあったか」「どういった人柄なのか」等を事前に把握できた可能性はあったと思います。

現代のビジネス環境では、見た目や雰囲気、表面的な実績だけで相手を判断する事は極めて危険です。近年はインターネットやSNSを通じて短期間で事業やブランドを作り上げる事が可能になりました。ただ、表面的には成功しているように見えても、負債や未払い、訴訟リスクを抱えている場合もあります。よく知られた和服のレンタル業者が客に成人式の振り袖予約だけをさせておいて貸出前に倒産した事件等は、まだ記憶に新しいと思います。

調査について理解をしてほしい事は、信用調査は「疑う」為ではなく、「守る」為だという事です。これは採用における求職者の選考時のリファレンスチェック(バックグラウンドチェック)にも言える考え方で、す。会社経営において、相手を疑う姿勢ばかりでは良い関係は成り立ちませんが、盲目的な信頼もまた危険です。重要なのは、信頼を築く為に必要な確認を行い、双方にとって健全で持続可能な関係を作る材料を得る事です。その為には、契約や取引の前に事実を確認する習慣を持つ事が大切です。職場をリスクから「守る」意味で、与信調査や反社チェックの他、中途採用前の前職調査をお勧めします。

事前に調べ、情報を整理し、冷静に判断する。それは結果的に、自身や自社を守る事につながります。企業にとって信用調査や反社チェック(反社会調査)は、単なる予防策ではなく、事業を持続させる為の基本行動です。「騙されるな」の実践です。どれほど経験や直感に自信があっても、過去の事実や客観的なデータにはなかなか勝てません。数字や履歴が示す事実は、時に表情や言葉よりも雄弁です。冒頭で触れた「騙すより、騙される人になれ」は「悪人になるな、人を信じる事ができる人になれ」と言った意味だと思います。しかし、ビジネスの現場では、相手を無条件で信じる事が美徳とは限りません。企業活動において騙されない事は不可欠事項であり、その為のツールとして取引先信用調査やバックグラウンドチェック(リファレンスチェック)があるのだと考えます。