調査員ブログ

AIに引けを取らない当社の反社勢力関与調査

近年、反社会的勢力との関与調査において、AIによる反社チェックサービスを提供する企業が増えています。AIを用いたサービスの多くは、インターネットや新聞等の様々なデータベースをもとに、対象者の名前とネガティブワードを組み合わせて検索し、その結果をレポート化し提供をしている様です。検索速度や網羅性という点で優れており、調査コストを抑えたい企業や採用担当者にとって、一定の需要があることは間違いありません。

しかし、こうしたAI検索型サービスにも課題はあります。例えば、同姓同名による誤認です。世の中には同姓同名者が存在し、同姓同名者同士の居住地域が近い事もあります。そう言った場合、同一人物であるかのように誤解されやすい結果が出てくる事があります。

以前にAI反社チェックサービスを利用したクライアントから、同一人物に思える人の調査依頼がありました。依頼は、メディア報道された逮捕者と同姓同名、同じ市内に暮らし、同じような年齢、という採用候補者に関するものです。確かに表面的な情報だけを見れば「本人では」と思ってしまうでしょう。しかし、現地調査の結果、依頼対象者は逮捕者とは別人である事が判明しました。当時、その地域では風評が出た為、同姓同名者の家族が町内会を通じて「記事の逮捕者とは別人である」と説明していた事がわかりました。また、その説明の場では同姓同名者の無実を証明できる人もいたようです。もし、AIによる反社チェックだけで終わっていれば、依頼したクライアントは優秀な人材を逃す事になっていたかもしれません。

別のケースではAIが提供した、7年前に暴力事件で逮捕された暴力団員と同姓同名者の反社チェックの結果の調査もありました。インターネット検索では、当時の逮捕記事が容易に見つかりました。しかし、聞き込みにより、当該暴力団員は同じ市内の別の町の住人で、既に他界しており、こちらも別人と判明。これも、AIによる検索だけでは解決できなかった事例です。この件も情報を鵜呑みにしていれば、依頼者の判断は間違った方向に進んでしまったでしょう。

同姓同名による風評被害は、決して珍しい話ではありません。特にインターネット上の情報は拡散力が強く、一度誤った関連付けが広まると訂正が困難になります。こうした間違った情報の拡散の結果は、裁判例でも見られます。例えば、新聞等の報道によって、同姓同名の第三者が社会的評価を傷つけられた、として慰謝料が認められたケース。その他、訂正や謝罪記事が十分に行われなかったため、名誉毀損が成立した例も存在します。

とは言え、AI自体を否定するつもりはありません。AIが膨大な情報を瞬時に拾い上げてくれる事は、調査の方向性を考える上で大きな助けになると思います。「どのようなネガティブ情報が出回っているのか」「どの媒体に掲載されているのか」を事前に知る事で、調査の重点を絞り込むことができます。気を付けるべきは、その情報を結論として扱わないようにする事です。

現時点でのAIによるチェックは、データベース上の検索結果を情報として報告しており、現地での調査は行っていません。AIは早くて便利なツールですが、WEB上に掲載されなかった情報を拾う事はまだできないのです。調査の現場では、それが依頼者にとって重要な要素になる事もあります。例えば、対象者が昨日何色の上着を着ていたか、を知るのは、その人と家族、そして、その日に会った人だけです。 当社の調査は現地にて、その方々を探し、問いかけ、回答を得る事で判断をしています。 ローテクの極みとも言えますが、まだハイテクに負けていない調査手法です。生きた情報を得るには、実際に足を運び、声を聞く事が最も確実と言えます。ただ、AIに比べ時間がかかる事は否めません。

AIの進歩は目覚ましく、現在では解像度が低い映像でも、顔認証や解析等ができるようになりました。今後はそう言った技術が採用や与信調査、反社会勢力関与調査に活用される可能性もあるでしょう。しかし、地域での評判や人と人の信頼関係といった要素まで把握できるようになるには、まだまだ時間がかかると思います。AIが方向を提案し人が裏付けを取る、といった手法で補完し合う事が、今後の反社チェックやバックグラウンド調査の理想的な姿なのかもしれません。依頼者にとって必要なのは「事実の把握」です。AIの判断が届かない部分については、今後もローテクな調査が欠かせない、と考えています。