調査員ブログ

バックグラウンドチェックで採用時のリスクを減らす

以前、当社のバックグラウンドチェックの説明をする機会があり、そこには、問い合わせがあった担当者の他にその企業の代表者も同席をしており、当方が説明に入るより先に代表の方はこう言いました。「面接で目を見れば、良いか悪いかはわかる。採用調査は必要ない」と。
確かに人は嘘をつく時に独特の行動をとるそうで、目の動きもその1つです。ただ、難しい事ではありますが、訓練次第でその行動の制御ができるようになる事も事実です。

実話をもとにしたアメリカ映画の主人公のモデルになった、元詐欺師の有名なセキュリティコンサルタント業者のCEOはこう言っています。「信じさせるなんて難しくない。ただ、相手の目を見て話せばいいだけだから」と。つまり、相手の目を真っすぐ見つめて話すという行為は、誠実さや信頼性を証明するものではなく、むしろ悪意を持つ人物にとっては利用しやすい手段にもなり得るという事です。

海外に目を向ければ、採用選考時におけるバックグラウンドチェックの普及率は高く、特にアメリカでは人材の採用前にバックグラウンドチェックやリファレンスチェックを行う企業は90%を超えています。調査は犯歴や破産歴、職能の確認以外に、薬物テストを行う事さえあり、多くの企業ではパートタイム従業員にもチェックを行っている様です。その背景には、アメリカが訴訟大国である事が大きく関係しています。
例えば、雇用主が調査を怠って元犯罪者を採用し、その人が職務中に再び犯罪を行った場合、雇用者も責任を問われて訴えられる事もあります。場合によっては、多額の賠償金や何らかの刑罰を命じられます。アメリカでは、採用の前に調査を行わなかった雇用を”Negligent Hiring”(ネグリジェント ハイヤリング:過失雇用や怠慢雇用)と呼び、雇用者が行うべき安全対策を怠り社会的義務を果たさなかった、として責任を取る事になります。その為、地域社会と自身の身を守る手段として、バックグラウンドチェックやリファレンスチェックが普及しているのだそうです。

バックグラウンドチェックの調査員として、日々、大なり小なりの経歴詐称の結果を目にします。多くは、在籍期間の細工ですが、中には明らかに騙す事を目的で書かれた嘘の経歴の記載しかない履歴書がある事も確かで、以下は嘘の様な実際の調査結果です。

その採用候補者の履歴書の住所欄に現住所の記載がなく「出向中により、仮住まい」とありました。その代わり連絡先として実家と称する住所が記載されていましたが、そこは他人が経営する駐車場でした。また、前職と申告の企業名と同名企業は、対象者が在籍事実のない企業でした。しかも、その企業へは、調査対象者についての苦情が年に何度か寄せられており、迷惑を被っているようです。調査を進めていくと、本人は以前にその企業と似た社名の会社を経営していた事が判明。その上、履歴書の氏名さえ偽名(法人登記簿から本名と住所が判明)であり、10数年前にネットオークション詐欺容疑で2度、偽造免許証を使用した詐欺容疑で1度逮捕されていた人物でした。さらに、当調査結果の報告後半年もせずして、その男が再逮捕された事が報道されていました。

その再逮捕は、当時、広島在住の本人が採用面接の為に「北海道から福岡県まで飛行機に搭乗した」と偽の領収書を面接先に渡し、交通費として現金約15万円をだまし取った詐欺容疑によるものです。今回の逮捕で本人は「現金はもらったが、だます気はなかった」と供述していたそうですが、過去3度の逮捕時にも同じ供述をしています。結局、楽に現金が手に入るなら、何度でも詐欺を繰り返すと言う事でしょう。なお、近年の前科者数における再犯者の割合は上昇傾向にあり、2020年の時点で49.1%にまで上っています。つまり、前科者の約半数が再犯者なのです。

やむを得ない理由から犯罪に手を出してしまい、真剣にその罪を償った人であれば、再出発のチャンスがあって良いと思います。ただ、反省をする事ができない上記の様な人物は、どれだけ捕まっても変わる事はないでしょうし、人格の矯正はほぼ不可能に思えます。

すべてのバックグラウンドチェックでこのように多くの情報が得られる訳ではありません。ただ、採用予定者の前職調査は、その人がどのような経歴を持ち、どのような行動をしてきたか、を知る事ができる可能性が高く、不穏分子の流入を防ぐ事に有効と考えます。調査現場が長い調査員として、人材採用の際のリスクを減らす為にもバックグラウンドチェックやリファレンスチェック、その他、反社チェック等を検討材料として取り入れる事をお勧めます。

人は信じたい相手を信じようとします。しかし、その気持ちが時に落とし穴となります。特に採用選考時や新規取引開始前等には、目の前にいる人物が信頼に足る相手かどうかの見極めは、感覚だけに頼るのではなく、事実の裏付けによって確かめる事が重要です。
相手の目を見て騙されてはなりません。