企業が人材の採用選考時、履歴書や職務経歴書などによる書類選考、面接や筆記試験、適正検査などの結果だけでは、職能や人柄までをも掴むことは困難であり、採否を判断する決め手とはなり得ません。また、見栄えの良い履歴書や職務経歴書の書き方などのマニュアルがWeb上で簡単に閲覧でき参考にできる時代であり、履歴書等に虚偽の申告があったとしても、それを見抜くことは至難の業です。
そこで近年注目されているのが、人材採用調査(バックグラウンドチェック、リファレンスチェック、前職確認調査)です。人材採用調査は、採用候補者がこれまでどのような職務経験を持ち、どのような評価を受けてきたのか、また勤務態度や職場での人間関係、退職理由など、第三者からの客観的な情報を得ることを目的とした調査です。それにより、履歴書に記載の在籍期間や雇用形態、役職などの申告に虚偽が無いかも確認できます。加えて、犯歴やSNSのチェックなどもできます。そして、人材採用調査は、不穏分子の入社を防ぐというだけではなく、企業にとってはミスマッチや早期離職といったリスクを軽減し、より効果的な採用判断を行うための重要な手段となり得るのです。
実際に転職者を対象とした人材採用調査(バックグラウンドチェック、リファレンスチェック、職歴確認調査)を行ってきた中で感じるのは、経理担当者は次の職場も経理部門へ、営業職は営業部門へと、同じ職種で転職を繰り返している人が多いということです。同職種での転職であれば、前職で得た経験や知識を活かしやすく、即戦力として新しい職場でもスムーズに業務に取り組める可能性が高くなります。
また、企業側としても、求人を出す部門の経験者を求める傾向があり、特に人手不足が深刻な昨今では「育成前提」よりも「即戦力重視」の採用方針をとるケースが多くなっています。このように、転職を通じてキャリアを積むことは、経験の幅を広げ、仕事の質を高めることにもつながる、一般的には前向きな選択と考えられています。
しかし、採用調査を通じて見えてくるのは、必ずしもポジティブなキャリアばかりではないという現実です。時には、経歴だけを見れば順調にキャリアを積んでいるように見えるものの、実態は大きく異なるケースも存在します。
たとえば、先日行った調査では、40代半ばの男性、現在は税理士法人に勤務している人物が対象となりました。この方は過去に7社の勤務経験があり、そのうち6社が税理士法人または会計事務所と、業種に一貫性が見られ、専門的なキャリアを築いてきたように見えました。20年余りで7度の転職はやや多い印象ではありましたが、最近では職歴が多いこと自体は珍しくないため、その点は大きな問題とは捉えていませんでした。
ところが、実際に在籍確認がとれた4社すべてにおいて、退職理由が「本人のメンタル不調」または「家族の体調不良」によるものであることが判明しました。さらに深く調べると、いずれの職場でも入社間もなく同様の理由で休職し、復職しても再び同じ理由で休みを取り、最終的にはほとんど出勤しないまま退職するというパターンを繰り返していたのです。現職の税理士法人においても、調査時点では休職中でした。後半の職場では病院の診断書を提出するなど、形式的には正当な理由が添えられていましたが、実態としては税務会計のキャリアよりも「休職・退職の履歴」を積み重ねてきた人物であることが明らかになりました。
このような事例は、書類選考や適性検査、面接だけでは決して見抜くことができません。表面上は「同業種でキャリアを積んできた経験豊富な人物」として好印象を持たれやすい一方で、職場での継続的な勤務や貢献に問題があるケースもあるのです。採用後に問題が発覚しても、すでに雇用契約を締結してしまっていては、解決には多大な労力とコストを要します。
だからこそ、人材採用調査(バックグラウンドチェック、リファレンスチェック、前職確認調査)の実施は、企業にとって非常に重要なプロセスとなるのです。調査を通じて応募者の実像に近い情報を得ることは、早期離職のリスクを減らし、安定した人材確保へとつながります。また、候補者本人にとっても、自身のキャリアに誠実であることが結果的に信頼を得る近道になります。
表面的な経歴だけでは判断が難しい時代において、人材採用調査(バックグラウンドチェック、リファレンスチェック、職歴確認調査)は企業と応募者双方にとって、より良いマッチングを実現するための不可欠な手段であると言えるでしょう。