暴力団と聞くと、統率された組員で構成され、力で縄張りを仕切っている組織、といったイメージが浮かぶ方が多いと思います。ただ、最近は、指定暴力団の総長の引退等による組織の解散もあり、現代の反社会的勢力図は変わりつつあります。とは言っても、実際には他の組織との関係もある為、簡単に片付く様な事はありません。
ここで「指定暴力団」とはどの様な組織かの再確認です。「指定暴力団」とは、暴力団排除条例に基づき、各都道府県の公安委員会によって指定された組織を指します。全国で20数団体がこれに該当しており、不当な資金獲得行為を継続的に行っていると判断されています。こうした団体は上部構成員の身元は警察がある程度把握しており、社会的にも明確に“反社会的勢力”として認識されています。近年は、この指定暴力団の構成員数は減少傾向にありますが、反社会的勢力そのものが消え去っている訳ではありません。
指定暴力団以外では「半グレ」と言う集団がある事は広く知られており、暴力団のように厳正な指揮系統がある組織には属さず、反社会的な活動に関与する個人やグループの総称と認知されています。それら半グレは、暴力団員の減少に反してその数を増やしている状況にあります。有名な半グレ集団はいくつか存在し、その有名な2、3の集団の幹部クラスについて、警察は、指定暴力団程ではないにしてもある程度の情報を有している様です。ただ、この集団は、指定暴力団と違い、メンバーの入れ替わりや分裂が多く、実態がつかみにくいという厄介な体質を有しています。その他、半グレの中身は多様で、現時点において、反社会的活動を行っている、と言う以外の明確な定義はない様です。
なお、ある社会病理学者によると半グレは、主に4つのタイプに分類できるそうです。
1:かつて暴走族として名を馳せたグループの元メンバーが、当時の延長線上で準暴力団的な活動を行っているケース。
2:正業に就く意欲がなく、特殊詐欺の“受け子”や“出し子”などとして、容易に金銭を得ようとする若者たち。
3:見た目や職業はごく一般的な会社員でありながら、地下組織との繋がりを持ち、必要に応じて裏の仕事に関与する者たち。
4:かつて暴力団に所属していたものの、脱退後の社会復帰に失敗し、薬物や詐欺といった犯罪行為に逆戻りしてしまう元構成員。
このように、半グレには非行の延長線上にいる者から、職業的な犯罪者までが混在しています。中には一見して普通のビジネスマンに見える人物もおり、実態を外見や第一印象で見抜く事は困難です。その彼らが関与する犯罪行為は軽微なものではなく、また、実態の見えにくさ故に、企業であっても知らず知らずのうちに致命的なトラブルに巻き込まれる危険性もあります。被害については、半グレだからといって「半分」で済む事は決してありません。
また、最近では、通称「トクリュウ」といった反社会勢力も目立ってきました。それら匿名・流動型犯罪グループとは、SNSを介して結びつき、実行犯を募集してさまざまな犯罪に関わる集団と位置づけられています。トクリュウは、メンバーが固定せず、SNSなどを通じて緩やかにつながって活動しています。
とくに近年は、一般企業の採用や業務提携といった方法で、こうした人物が自然に紛れ込むケースもあるようです。履歴書の経歴や見た目も“問題なさそう”な人材が、実は裏社会とつながりを持っていたという例もあります。当社の調査結果を例に挙げますと、該当者はある地域医療機関に勤め、日々、真面目に職務に就いており、じきに管理職へ、と期待をされていた従業員でした。ただ、ある日、無断欠勤をし、連絡を取るも応答はなし。その日のうちに警察から、当該従業員は高齢者から金銭を騙し取っていた特殊詐欺グループの一員(受け子、出し子)であった為に逮捕されたとの連絡があり、即刻、懲戒解雇手続きが取られた、との結果報告がありました。本人は首謀者でなかった為、各種メディアには氏名の公表はされておらず、当初はクライアントも問題ない応募者と考えていたようです。ただ、念の為にと採用調査(バックグラウンドチェック、前職調査)を行ったおかげで、半グレ(トクリュウ)との交流が判明したのです。特殊詐欺の受け子のほとんどは、前述の人と同じような小遣い欲しさで悪事に手を染める素人で、見た目は目立たない一般人です。企業としては、リスクに対して感覚的な判断に頼るのではなく、バックグラウンドチェック等で事実を知り、そして客観的に考え、中と採用時の採用選考時にはそれらを踏まえた上で判断をする事が望ましい、と考えます。
調査が重要なのは雇用時の事だけではありません。店舗出店に理想的な土地の所有者が、法的に認められた企業であっても、その代表が暴力団の幹部、または親戚であった例はいくつもあります。暴力団排除条例の規制がいくら厳しくなっても、条例だけで安全が保証されるわけではありません。表面的な情報では見えないところにリスクは潜んでいます。将来的な損害を防ぎ自社を守る意味でも、企業の信用調査や反社会勢力の関与調査を積極的に取り入れて欲しいと思います。