採用におけるバックグラウンドチェックとリファレンスチェックの違い
採用活動において、候補者の人柄や経歴を正しく把握することは、企業にとって将来のリスクを避けるために欠かせないプロセスです。そこで用いられる代表的な手法が「バックグラウンドチェック」と「リファレンスチェック」です。両者は似た言葉でありながら、その性質や得られる情報の正確性に大きな違いがあります。
バックグラウンドチェックとは、中途採用候補者がこれまでに歩んできた経歴や職歴、評判、場合によっては信用情報や訴訟歴などを、第三者が客観的に調査する手法を指します。特徴は、候補者があらかじめ用意した人物を通さずに、外部から抜き打ち的に調査を行う点です。そのため、候補者本人に都合の悪い情報や、表面化していないリスク要因も見えてくる可能性があります。
一方でリファレンスチェックとは、採用候補者が指定した前職の上司や同僚などに対して、勤務態度や実績についてヒアリングする方法です。候補者自身が信頼できると判断した相手に依頼をかけるため、ポジティブな情報が集まりやすく、ネガティブな評価が伝わりにくいという特性があります。したがって、参考資料としての価値はあるものの、その精度や客観性には限界があるといえるでしょう。
採用調査の実態と課題
人事採用調査は大きく分けてこの二種類に分類されます。採用の現場では「リファレンスチェック」の呼び名を耳にされることが多いかもしれません。しかしながら、企業が本当に知りたいのは「候補者の裏に隠れているリスク」であり、それは往々にしてリファレンスチェックだけでは明らかにならないのが現実です。
リファレンスチェックでは、候補者が不利なコメントをすると思われる人物を自ら選ぶことはまずありません。加えて、依頼を受けた上司や同僚も、候補者との関係性を考慮すれば、仮にネガティブな事実があったとしても率直に伝える可能性は低いでしょう。結果として、リファレンスチェックは「参考意見」程度に留まり、採用リスクを十分に軽減できるとは言い難いのです。
一方、バックグラウンドチェックは、候補者の了承を前提としながらも、第三者機関が独自に情報を収集するため、より客観的で正確性の高い結果を得られる傾向があります。特に、経歴詐称、過去の不祥事、職場での評判といった重要な要素は、バックグラウンドチェックを通じて初めて明らかになるケースが少なくありません。マイナス点としては、候補者が指定した人物ではない為、取材先から取材拒否を受けるケースがあることでしょう。
実際の調査事例
当社が実際に行った調査の一例をご紹介しましょう。対象者は30歳代前半の女性で、飲食店を複数運営する企業にアルバイトとして入社し、その後正社員に登用されて約3年半勤務していました。前職での販売促進業務の経験が評価され、入社から2年後には販売促進部の責任者に就任するなど、一見すると順調なキャリアを積んでいた人物です。
しかし、バックグラウンドチェックの結果、採用リスクとして見逃せない事実が判明しました。彼女は入社して間もなく、社内のナンバー2にあたる50代男性と不倫関係に陥り、その関係性を利用して人事に介入していたのです。特に、不倫相手男性に優秀な部下に対してパワハラを仕掛けさせ、結果的にその社員を退職に追い込んでいました。その後、空席となったポジションに自らが就任するという経緯が確認されました。
さらに、不倫相手であるナンバー2の男性に経費を不正に遊興費へ流用させていた事実も浮かび上がりました。これらの不祥事はやがて社長に発覚し、ガバナンス体制の見直しが行われた結果、ナンバー2は平社員に降格、調査対象の女性は退職を余儀なくされました。
もしこの人物を採用する段階でリファレンスチェックのみを行っていたとしたらどうでしょうか。彼女が不倫関係にあった男性を推薦者として指定する可能性は十分にあり、その場合、真実が語られることは期待できません。表面的な良い評価だけが伝わり、企業は大きなリスクを抱え込むことになっていたかもしれません。
採用リスクを最小化するために
この事例からもわかるように、リファレンスチェックは「候補者が見せたい部分」を確認する手法であり、バックグラウンドチェックは「候補者が隠したい部分」まで浮き彫りにする手法だといえます。もちろん、全ての候補者が問題を抱えているわけではありません。しかし、企業が数年先を見据えて人材投資を行う以上、潜在的なリスクを可能な限り取り除くことは経営上の必須条件です。
加えて、近年は企業のコンプライアンスやガバナンスに対する社会的な要求がますます高まっています。採用一つの判断が、将来的に企業ブランドや取引先からの信頼に大きく影響する時代です。採用に伴うリスクを軽視した結果、企業が社会的信用を失う事例は後を絶ちません。
まとめ
バックグラウンドチェックとリファレンスチェックは、いずれも採用活動における重要なツールですが、その目的や得られる情報の質には大きな違いがあります。リファレンスチェックは「参考情報」として役立つ一方、採用の成否を左右する真のリスクを把握するには不十分です。対してバックグラウンドチェックは、候補者の経歴や行動の裏側まで掘り下げることで、採用の失敗を未然に防ぐ強力な手段となります。
採用は企業にとって未来への投資であり、その判断を誤れば大きな損失につながります。だからこそ、私たちは「背景を知ることの重要性」を改めて強調したいと思います。信用調査会社として、客観的かつ正確なバックグラウンドチェックを通じ、企業の健全な成長を支えることが私たちの使命なのです。