調査員ブログ

企業信用調査における法人登記簿の重要性を解説

企業信用調査を行う際、最初に確認すべき基本資料の一つが「法人登記簿(登記簿謄本)」です。
法人登記簿には、商号(会社名)、本店所在地、設立年月日、役員構成、事業目的、資本金など、企業の基礎情報が詳細に記載されています。これらの情報は、その法人の「存在」と「法的な実態」を示す最も公的な根拠資料といえます。

法人登記は、法務局に登録されており、人間でいえば「住民票」にあたるものです。したがって、法人登記簿の情報を確認することは、企業の実在性をチェックする上で欠かせません。信用調査の第一歩は、登記簿を通じて「その会社が確かに存在するのか」「どのような人物が経営を担っているのか」を明らかにすることから始まります。


法人登記簿で分かる企業の基本情報

法人登記簿からは、企業の構造的な特徴を把握することが可能です。たとえば役員の氏名を確認することで、同一人物が複数の会社を設立・運営しているケースを見抜くことができます。これは、グループ会社の実態や関連会社の関係性を調べる上でも重要な情報です。

また、事業目的欄を確認することで、その企業がどのような業種・業態を営むことを想定しているのかを知ることができます。登記上の目的と実際の営業内容に大きな乖離がある場合は、注意が必要です。特に、資金調達目的や投資勧誘を行う企業の場合、登記上の事業目的に「投資」「コンサルティング」「事業支援」など抽象的な文言しか記載されていないケースもあり、信用調査の現場では慎重にチェックを行います。


代表者住所非表示制度とその影響

令和6年(2024年)10月から施行された「代表取締役等住所非表示措置」により、登記簿上に代表者の住所を一部非表示にすることが可能となりました。
この制度は、個人情報保護や安全面を考慮したもので、代表者のプライバシー保護の観点では意義のある制度です。
しかし一方で、信用調査の観点からは、代表者情報の把握が難しくなるという課題も生じています。
特に、過去に複数の会社を設立し倒産や詐欺行為に関与していた人物の場合、住所情報をもとに関連性を確認することが難しくなり、反社(反社会的勢力)チェックの精度にも影響を与えかねません。

このため、信用調査会社では登記簿だけでなく、官報、新聞記事、行政処分情報、ネット上の風評情報などを総合的に照合・分析し、代表者や主要株主の経歴・背景をより多角的に確認することが求められます。

登記地の確認は「実態把握」のカギ

法人登記上の本店所在地は、その企業の“拠点”を示す最も基本的な情報です。しかし、登記上の所在地が必ずしも実際の営業実態と一致しているとは限りません。
例えば、管理部門や代表者自宅を本店所在地として登記しているケースもあり、その事実を把握できていれば特に問題はありません。
一方で、実際に存在しない住所や、取り壊し済みのビル跡地、山中の更地などが本店所在地として登記されている事例もあり、企業実態が不明確な場合は注意が必要です。

実際の信用調査では、現地確認や地図情報の照合などを通じて、登記上の所在地が実在し、企業活動が行われているかを慎重にチェックします。
特に、最近ではレンタルオフィスやバーチャルオフィスの住所を利用して登記している企業も増えており、その場合、実際の従業員数や事業実態を掴みにくいことがあります。


登記情報と反社リスクの関連性

信用調査の目的は単なる「企業情報の確認」にとどまりません。取引先として信頼できるか、反社会的勢力(反社)や不正行為に関与していないかを見極めることが、企業リスク管理の核心です。
登記簿を過去に遡って確認すると、暴力団事務所が本店所在地として利用されていたケースや、複数のトラブル企業で同一役員名が登場するケースも報告されています。
こうしたリスクを未然に防ぐためには、法人登記情報を基礎としながら、代表者・役員の履歴、過去の登記変更履歴、取引先の傾向、行政処分履歴などを総合的に分析することが重要です。

デジタル時代の信用調査と登記簿の活用

近年は、オンラインで法人登記情報を即時取得できる環境が整いつつあります。これにより、企業チェックのスピードは大幅に向上しましたが、その反面、形式的な情報だけを見て判断してしまうリスクも高まっています。
法人登記は「企業の履歴書」ではありますが、それだけで信用を判断することはできません。登記情報に加え、実際の事業活動・資金繰り・評判・取引履歴などの外部情報を組み合わせ、立体的に企業の信用を評価することが重要です。

まとめ

法人登記簿は、企業信用調査の最初の入り口であり、最も信頼性の高い一次情報源です。
しかし、登記情報はあくまで「表面的な企業情報」であるため、反社チェックや経営実態の把握のためには、他の情報源と照合することが不可欠です。
本店所在地、役員情報、事業目的の確認を通じて、企業の信頼性を多角的に評価することが、リスクを回避し、安全な取引を行うための第一歩となります。