会社経営は、日々の業務以外にも「どの企業と取引を始めるか」「誰を採用するか」といった、未知の要素に対して多くの判断を迫られる仕事です。例えば、取引を考えている会社経営者の名が、反社会勢力関係者と同姓同名であったり、採用予定者の経歴に不自然な点が見受けられたり、と気になる要素は少なくありません。こうした「懸念の芽」を放置する事は、後々のトラブルに発展しかねません。企業が持続的に成長していく為には、信頼できる相手と良い関係を築く事が重要です。
当社の本社が所在する大阪府は条例で「事業者は暴力団と一切の関係を持たないよう努める」と定められています。ただ、取引や契約の開始前等に相手方が暴力団員か否かを確認する「義務」規定はされていません(東京都では「確認に努める」旨を定めています)。その為、企業が知らぬ間に反社会勢力と取引してしまうケースも起こり得ます。
こうしたリスクを回避する為に警察は、契約書に「暴力団排除条項」を設ける事を推奨しています。これは、相手が反社会的勢力関係者であると判明した場合に、直ちに契約を解除できるようにするものです。
しかし、契約書の文言だけで安心は得られません。契約書に排除条項を加えても、契約を打ち切った相手が素直に引き下がるとは限らず、逆に恨みを買い、嫌がらせを受けるケースも考えられます。こうした事態を防ぐには、最初から関係を持たない様にする事が重要です
調査員としては、最低でも反社チェックを行う事が望ましいと考えます。また、一歩踏み込んで、聞き込みによる反社会的勢力関与調査を行えば、取引や採用時の見えないリスクを事前に把握でき、トラブル回避の可能性はさらに強まります。
こうした反社会的勢力チェックを通じて、企業のコンプライアンス体制を強化する事が可能になります。
暴力団排除条例の整備が進んだ現在でも、企業が知らぬ間に反社会勢力と接点を持ってしまう例は後を絶ちません。暴力団と知りながら交流を続ける企業には、一定期間の処分が下されます。また、処分期間は暴力団との交流の状況によって変わります。さらに、一定期間を過ぎたとしても処分解除には「暴力団又は暴力団関係者との関係がな事が明らかな状態になるまで」と言う条件を満たす必要があります。
なお、暴力団との交流があった、と判明した場合は、暴力団関係事業者に対する指名停止措置により、企業名や所在地、代表者の氏名が公開されます。つまり、企業としての信用を回復するには長い時間を要する事になるのです。
世の中には、見た目や印象だけでは判断できない事が数多くあります。企業経営においては、取引先や採用候補者の裏に潜むリスクを慎重に見極めなければならず、様々な情報から多角的に検討をする必要があります。近年では、指定暴力団に所属しない半グレも存在しており、一般人と見分けがつきにくい人物もいます。その為、思わぬところから懸念点が判明するケースもあります。
以下は、こうした背景を踏まえ、当社が行った東京のある企業の社長の反社会勢力関与調査をした際の結果です。
その企業の社長自身は暴力団員ではなかったのですが、対象者だけでなく、その周辺を調査したところ、社長の実家が福岡の指定暴力団の現役幹部宅であった事が判明した事があります。この場合、たとえ対象の社長が組員でなくとも、交流を持ってしまえば、警察から密接交際者(反社組織と交流がある者)認定を受ける可能性が大いにあります。同調査は契約前の調査であった為、依頼した企業は危険な橋を渡らずに済みました。もっとも、この調査対象者の場合は詐欺容疑での逮捕歴があったので、暴力団の関係者でなくとも「推薦できる人物」とは言えない人でした。
この様な事は調査をしなければ判るものではありません。やはり、取引開始前の反社会勢力関与調査は不穏分子の流入に有効と言えるでしょう。
調査の目的は人を疑う事ではありません。むしろ、正当に努力してきた人材を守り、企業と企業、または企業と採用候補者の双方にとって健全な関係を築くためのものです。
反社会的勢力の関与を見逃せば、会社全体が法的、社会的なリスクを負う事になります。逆に、しっかりと確認を行う事で、無用な誤解やトラブルを未然に防ぐ事ができます。反社関与調査やバックグラウンドチェックは、見えないリスクを可視化する事ができる有効な調査です。
信頼に基づく経営を継続する為に、こうした取り組みを日常的な企業防衛の一環として位置づける事は非常に重要です。

