企業にとってどんな人材を採用するかは、将来の事業や組織を左右する重要な経営判断です。そのため、多くの企業では履歴書や職務経歴書、面接、適性検査などを通じて応募者の経験や能力、人柄を確認し、採用の可否を判断しています。
しかし、近年はこうした従来の採用手法だけでは、応募者の経歴や実績の真偽を判断することが難しくなっています。
特に大きな変化をもたらしているのが、生成AIの普及です。
【「それらしい職務経歴書」が簡単に作れる時代】
職務経歴書には、単なる勤務先や在籍期間だけではなく、具体的な担当業務、実績、成果、身につけたスキルなどが記載されます。本来、こうした内容は実際にその職場で勤務した経験がなければ、詳しく書くことは容易ではありませんでした。
ところが現在では、生成AIを利用することで、実際には経験していない業務についても、専門的で自然な文章を短時間で作成することが可能です。
さらに、応募企業に合わせた志望動機や自己PR、面接で想定される質問への回答まで、AIを活用して準備することができます。
もちろん、AIを利用して応募書類を作成すること自体が問題なのではありません。問題となるのは、実際には経験していない職務や実績まで、あたかも自分の経験であるかのように記載するケースです。
文章としての完成度が高ければ高いほど、採用担当者が書類だけを見て真偽を判断することは難しくなります。
【実際にあった「勤務実態そのものが存在しなかった」経歴】
当社が行う採用調査(バックグラウンドチェック、リファレンスチェック)でも、履歴書や職務経歴書だけでは判断できなかった事実が確認されたケースがあります。
ある東京本社の飲食店チェーン企業に応募してきた20歳代の男性は、履歴書と職務経歴書に、大手カフェチェーンや高級ホテルのレストランなどで勤務した経歴を記載していました。職務内容も非常に具体的で、担当していた業務や経験、実績などが細かく記載されていました。志望動機や自己PRも自然で好感の持てる内容となっており、本人も爽やかで接客業に適した印象だったことから、クライアント企業は非常に前向きに採用を検討していました。
ところが、当社が採用調査(バックグラウンドチェック、リファレンスチェック)を実施したところ、状況は一変しました。
記載されていたカフェに確認したところ、対象者が勤務していたとされる時期から現在まで勤務しているスタッフや店長に、その人物を知る者がいませんでした。さらに、カフェの運営会社の人事部門にも照会を行いましたが、過去の在籍者記録にも対象者の名前や同一生年月日者は確認できませんでした。
つまり、単なる勤務期間の水増しや担当業務の誇張ではありません。履歴書に記載されていた勤務先そのものに在籍していなかったのです。
クライアント企業からは、「履歴書や職務経歴書だけでは、この事実を見抜くことはできなかった」と驚きの声がありました。
このケースは極端な事例かもしれません。しかし、重要なのは、応募書類の内容が自然であればあるほど、それだけで事実であると判断してしまう危険性があるということです。
【AI時代だからこそ「リアルな情報」が重要になる】
AIによって文章を作る技術が進歩すれば、応募書類の作成技術もさらに高度になっていくでしょう。その一方で、AIには確認できない情報があります。
それは、実際にその会社で働いていたのか、実際にその仕事をしていたのか、周囲からどのように評価されていたのか、といった現場に存在するリアルな情報です。
そこで重要になるのが、採用調査(バックグラウンドチェック、リファレンスチェック、前職確認)です。
もちろん、すべての応募者を疑う必要があるということではありません。採用調査の目的は、応募者を排除することではなく、採用側の企業がより正確な情報に基づいて判断できる環境をつくることにあります。
履歴書や職務経歴書、面接は、応募者自身から得られる自己申告の情報です。一方、採用調査(バックグラウンドチェック、リファレンスチェック)では、必要かつ適切な範囲で、第三者から事実関係を確認することができます。
これからは、書類の内容が立派だから採用するのではなく、書類に記載された内容が事実なのかを確認したうえで判断するという視点が、これまで以上に重要になるのではないでしょうか。
【「AIで作れる情報」と「現場にしかない情報」】
AIとロボットを組み合わせ、人間の活動する現実世界で働くフィジカルAIが注目されています。
採用の世界でも、ある意味で同じような変化が起きています。
AIによって、応募者が自分を魅力的に見せるための情報を作ることは、これまで以上に容易になりました。だからこそ採用企業に求められるのは、AIによって作られたそれらしい情報だけを見るのではなく、その裏側にある現実に何があったのかを確認することです。
人材採用において、最も重要なのは書類の完成度ではありません。その人物が本当にどのような経験を積み、どのような仕事をしてきたのか。そして、自社に迎え入れた場合に、その人物を信頼して仕事を任せることができるのか。
AIが進化する時代だからこそ、企業にとってリアルな情報の価値は、むしろ高まっているのかもしれません。
採用における判断材料をより確かなものにするために、採用調査(バックグラウンドチェック、リファレンスチェック、経歴確認調査)を活用することは、これからの人材採用における重要な選択肢の一つとなっていくでしょう。
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